それからはスープのことばかり考えて暮らした/吉田篤弘
小腹が減る ★★★★★
スープとサンドイッチ ★★★★★
小さな映画館に行きたくなる ★★★★★
<あらすじ>
<感想>
会社を辞めて、することもなくただ好きな映画館へ通うだけの、僕のぼんやりとした日常。それが、サンドイッチ屋「トロワ」をきっかけに少しづつ穏やかに変化していくのが心地いいです。
一つのことに集中するとほかのことにぼんやりとしてしまう主人公、不器用なところが多いけど一生懸命で憎めないし、実際周りの人からも愛されている。主人公の周りの人たちも皆人間味あふれていて優しい人ばかり。
夜鳴きラーメンのお店があったり、電車で少し行くと小さな映画館があったり、こんな街にすんでみたいと思える本当に穏やかな世界。
映画館で食べるポップコーン。
トロワのポテトサラダのサンドイッチ。
緑の帽子のおばあさんの名前のないスープ。
材料や料理法が具体的に描かれていないにも関わらず、すごく美味しそうな感覚だけが妄想出来て、そんなサンドイッチとスープを求めて町に出かけたくなります。でも実際、そんなに感動するような商品はなかなか身近にはないんですけどね。
読んだ後もほんわりと幸せな気持ちです。
↓ ここからネタバレあり感想 ↓
主人公が好きな昔の映画の女優が、緑の帽子のおばあさんというのは、だいぶ早い段階でなんとなく予想がつくのだけれど、主人公がぼんやりしていてなかなか気づかないし、気づいても進展しないし少しモヤモヤはします。
映画の世界では同年代でも現実世界では「おばあさん」と「若者」という歳の差があるので、そんな片思い(?)の気持ちも恋人になるといった展開にはなりません。恋心はたぶんそのままだけど、それに人としてのリスペクトが加わって、そこは無理がなくて自然でいいなと思いました。
個人的には主人公が住んでいるアパートのマダムが、人として好きです。
「素敵だった義母の真似をしているけど、義母の素敵さと私は違ってしまう」
そんなセリフがあったんですが、私も今、絶賛義母の良い所を取り入れ中で(笑) 私は「ひかえめで気が利く」「おおらかで細かいことは笑い飛ばす」「レシピのメモをたくさん持っている」なんてことを真似したいんですが、それをしたところで絶対絶対義母のようにはなれないし、すべてをコピーしたとしても違うと思うんです。
それと同じように、おばあさんのスープをレシピの通りにきっちり作っても、おばあさんのスープの味とは少し違ってしまう。でも、それはそれで良いことなんだと知らされました。
昔を受け継ぐ、ということは「完全そのまま」を伝えていくことも大事だけれど、決してイコールではないんだと思い、なにか不思議と肩の荷が下りた感もあります。
親との死別や、離職といった、心に小さな穴が開くような出来事が根底にはありますが、それを覆うほどのあたたかな世界で、いつまでもその町の空気感を感じていたいなと思う作品でした。
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